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対談「親心と子育ち、いま伝えたいこと」

 

埼玉県教育委員・音楽プロデューサー   松居 和

NPO法人コ・ラ・ボ埼玉代表理事     望月 泰宏

 

 4月21日、松居 和氏(埼玉県教育委員会委員VS望月泰宏(NPO法人フリースクールむさしの学園代表)の対談:「親心と子育ち、いま伝えたいこと」が浦和市内で開催された。参加者からの投稿文を掲載します。当日どんな展開になったかを想像してください。

 

・ 車の両輪 ― システムの構築と脱構築

 

 「教育というシステムが“親心”を破壊する。」と主張する松居氏は、教育委員という立場からそのシステムの中で敢えて“親心”を耕すことを目指す。その取り組みの柱は『一日保育士体験』である。全ての親をこれに参加させることで「感謝の気持ち」(=“親心”)をはぐくむことは、教育システムの維持にとっても不可欠であるという。『保育士体験』を徹底することで世の親たちを「一網打尽」にし、“親心”を目覚めさせようというのが彼の仕掛けなのである。一方の望月氏はフリースクールやコ・ラ・ボ埼玉での相談経験から、システムにあてはめようとする“子育て”の傲慢さを指摘し、「わたしの子ども」という所有格の発想を放棄し“子育ち”を見守る姿勢の重要性を強調する。 
 議論は既存のシステムに対する両者の立ち位置の相違から展開された。一聴衆から見るとそれはまるで車の両輪のように軌跡は平行線を辿るのだが、その両者が支えるからこそ「親−子」の車が傾かずに走り続けられるのであろうという印象を持つ。システムの中で“親心”をはぐくむこと、システムに乗りやすくすることは、虐待やネグレクトといった問題を抱える家庭において重要な取り組みであるが、これはまた、現状のフリースクールがカバーしきれない領域でもある。フリースクールのドアを叩く多くの親たちは、それだけ子どもに関心があり熱心である。逆に言うと、その“親心”が時として所有格の発想に転じ、親−子関係や子ども自身の生き辛さとなるようなケースが、多くフリースクールには存在しているということである。“親心”の上に“子育ち”の視点がおかれたとき、それは「わたしたちの子ども」という意識を生み、「わたしの」の閉じた関係性から社会へと開かれた親−子へ、社会における“親心”の成立へと導かれるのではないだろうか。

 

・ 対象の相違 ― それぞれの立場からのアプローチ

 

 次に望月氏は自身の経験から母子密着の問題を提示した。これに対し松居氏は「母子密着、モンスターペアレンツ大いに結構」と反論。保育関係者にとって“親心”の寡少がもたらす虐待の問題は切実なのだ。“親心”に対する捉え方の違いは、両者が扱う対象の発達段階の相違から影響されているものでもある。
 乳幼児期における“親心”の欠如や寡少は子どもを死に至らせることすら稀ではなく、「母子密着」は然るべき状態と言ってもいいだろう。しかし学童期、青年期に差し掛かった人間は新たに「自立」というテーマを抱えることとなるため、親−子関係もまた新たな段階へと移行せざるを得なくなる。ここで問題となるのが如何に“親心”を発揮するのか、ということなのである。望月氏が手がけるケースの多くは、“親心”に満ちていながらそれをどのように発揮させたらよいのかという点で苦悩し、時に「傲慢な、わたしの“子育て”」に陥ってしまう、そんな親−子である。
 松居氏は“親心”の欠如に危機感を持ち、ひとりでも多くの人間の「“親心”をONにする」ために活動を続ける。望月氏は「ON」になった“親心”を発揮する方向性について、それぞれの親−子とともに考え続ける。両者の取り組みは、異なる視点に立つからこそ互いに意味をなすものだといえるのではないだろうか。(S・S)

 

対  談


「親心と子育ち、いま伝えたいこと」


埼玉県教育委員・音楽プロデューサー   松居 和 氏

NPO法人フリースクールむさしの学園代表    望月 泰宏


プログラム  (1)「現場」からの問題提起
        (2)対談「親心と子育ち、いま伝えたいこと」
        (3)会場との質疑応答

平成20年4月21日(月)
13時30分〜16時30分

浦和コミュニティーセンター多目的ホール
(浦和パルコビル10F)

さいたま市浦和区東高砂町11-1(浦和駅東口徒歩1分)
電話番号 048(887)6565

入場無料     定員 400人

お申込み方法: 名前、住所をご記入の上、E-mail又はお葉書にてお申し込みください。

お問い合わせ先:

NPO法人 コ・ラ・ボ埼玉

〒353-0007 埼玉県志木市柏町4−5−28
TEL: 048-487-0006
E−Mail: sec@manabi-21.com
後援: 埼玉県 ・ 埼玉県教育委員会
 

 

対談「親心と子育ち、いま伝えたいこと」開催趣旨

 

 今、子育てという個人や家庭の問題を地域や社会全体の課題として捉え、国民全体で解決しようという観点から、少子化対策や次世代育成支援対策が様々な場で議論されています。
 平成19年12月に閣議決定された「子どもと家族を応援する日本」では、「働き方の見直しによる『仕事と生活の調和』の実現」と「就労と子育ての両立、家庭における子育てを包括的に支援する枠組みの構築」の二つの取組みを車の両輪として進めることを打ち出しています。これは、「就労」と「結婚・出産」の二者択一構造を解消し、女性を始めとする働く意欲のあるすべての人の労働市場参加を実現しつつ、希望する結婚、出産、子育てを可能にしようとするものです。
 また、保育所における保育の内容を定めた「保育所保育指針」が改定され、平成21年4月に施行される見込みです。今回の改定は、ここ数年くらい憂慮されている子どもを取り巻く生活環境の変化や子育ての孤立化や子どもに関する理解不足などから不安や悩みを抱える保護者が増加したことに伴う親の養育力の低下の指摘などを踏まえたものです。
 特に、保育所は、家庭や地域の様々な社会資源との連携を図りながら、入所する子どもの保護者に対する支援、地域における子育て支援など保護者に対する支援を行う役割を果たすべきであることが強調されています。さらに、保護者に対する支援を行うに当たっては、子どもの最善の利益を大前提とし、保護者とともに子どもを育てる営みに関わるという視点、保護者一人一人の自己決定を重することや保護者の養育力の向上に結びつくような支援の重要性が強調されています。

 埼玉県教育委員の松居氏は、保育園を子どもも親もともに成長する場であるととらえ、親が保育所の保育を相応の時間をかけて体験し、乳幼児と向き合うことにより、親心が耕せることを強調しています。
 一方、望月泰宏は、フリースクールでの現場実践を通じて子どもの心と徹底的に向き合うことを基本にして活動しています。親も子も育っていく課程の中で出会う様々なハードルに対して、それぞれが独りで悩み、次のステップが見出せない親子、また相談窓口の扉を叩いても理不尽な対応に傷づき、次のステップが見出せない親子のために、親子と一緒になってオーダーメイドで次のステップを創出していこう、というフリースクールむさしの学園の活動やコ・ラ・ボ埼玉の取組み(「心の相談室コ・ラ・ボ」等々)は子どもを最大限尊重したものです。
  
 そこで今回、「親心と子育ち、今言っておきたいこと」と題して対談を行い、参加者全員で、子どものこと、親子のこと、親としての心の持ちようなどについて、自由に議論してみたいと思います。


むさしの学園:お別れ会  

 今年は4名の中学3年生が学園から旅立ち、サポート校へ進学しました。毎年恒例の「卒業生を送る会:お別れ会」を3月15日(土)に行いました。昨年卒業し、今は学園のボランティアをしている高校1年生、子どもたちが企画し、実習生、スタッフがサポートする形で行われました。代表差し入れのピザはあっという間になくなりました。「進学しても学園のボランティアとして学園に来ます」と卒業生たちは話していました。  

 


むさしの学園:お花見会  

 卒園生のお父様の協力で、柳瀬川まで車を走らせお花見。いつもと違う環境に包まれ、川遊びをしたりお菓子を食べたり。風の強い肌寒い日でしたが、桜そっちのけで皆のびのび過ごせたようでした。

 学園を一歩出たところで皆と過ごせることは、生徒たちにとって息抜き、また新たな刺激ともなるようです。保護者の皆さまのご理解・ご協力の下で、今後も折々にこのような機会をつくっていけたらと思った一日でした。(学園職員)